粕本集呆の「競馬の花道」

カスPこと粕本集呆と逆神の権兵衛による、日本で唯一、当たらないことを"売り"にしている競馬予想ブログ。

藤岡康太騎手逝去

藤岡康太騎手が死去。享年35。

中央の重賞22勝。馬券でお世話になったのは2011年プロキオンS(シルクフォーチュン)くらいで、むしろ地方交流重賞常連のケイアイパープルとのコンビの方が馴染み深い。馬券的にお世話にならなかった中央の21勝中、GⅠは2勝なのですが、ともに一風変わった勝ち方でした。

最初の2009年NHKマイルCジョーカプチーノは10番人気だったのですが、レースは14番人気ゲットフルマークスが捨て身の大逃げでハイペース。藤岡康太鞍上のジョーカプチーノは離された2番手だったのですが、1番人気ブレイクランアウトら有力馬たちが後方で牽制し合っていたので、ジョーカプチーノと3番手以降はこれまた大きく離されていた。私も含めレースを見ている皆が飛ばしまくるゲットフルマークスばかり見ていたので、コイツはいずれガス欠を起こすと踏んでいたのですが、ゲットフルマークスと後方集団の間、ポツン一頭走っているジョーカプチーノは目に入らない。おそらく後方集団も、ゲットフルマークスは見ていても、自分たちの間にもう一頭いることに気づかなかったのでは?

そんな「死角」に入っていたジョーカプチーノは、元々気性がいいとは言えない馬だったのですが、前でゲットフルマークスが牽引車ならぬ牽引馬になってくれていることと、3番手以降が遠いところでやり合っている―特に後方集団の頭にいた4番人気フィフスペトルと5番人気レッドスパーダが道中消極的だったことから、この2頭が結果的に「蓋」になってしまっていた―ので、ちょうど真ん中でポツン一頭という、折り合いという課題を実にクリアし易い展開だったのです。10番人気とはいえ、ファルコンSを勝ち、NZTも不利を被りながらの3着と実績もあったので、気分良く走れさえすれば、勝つだけの力はあった。そして後方で有力馬の鞍上たちが自身の失策に気づいたときは、あまりに離され過ぎていた。3着も13番人気だったことから大波乱。当然私の馬券はハズれていて、何を本命にしていたかは忘れたのですが、テレビ越しに、蓋になっていたレッドスパーダ(2着)の横山典を「てめえがチンタラ走っているからこうなったんだ!」と罵りまくっていた記憶だけは鮮明に残っています。もう15年も前の話。

そして昨年のマイルCSナミュールは当日になって急遽テン乗り代打騎乗で勝利。少し前に引退した大庭や高野和馬のように、藤岡康太より長く騎手をやっていても、重賞を勝つことなく鞭を置く騎手も数えきれないほどいる中、幸運に恵まれたGⅠ勝利を2つも手にしたのだから、勝負の世界に必要なものを「持っている男」だった。だから死去したといわれてもピンときませんでした。そもそも水曜日の時点で意識が戻らなければ重篤なのに、そういった思いは希薄でした。同期の騎手や競馬関係者たちが悲しんだり涙を流すというニュースに接しても「ああ、そう…」という乾いた感想しかなかった。ただ、昨年のマイルCSを勝ったときの勝利騎手インタビューを今更記事で読んだとき―ハズれたレースだったので当時は読みもしなかった―、何か無性に悲しくなりました。

2009年、20歳。ジョーカプチーノNHKマイルを勝ったとき、「帰ってからカプチーノを飲みたいです」。

2023年、34歳。ナミュールマイルCSを勝ったとき、「これから帰って、子どもをお風呂に入れてきます」

帰ってから何をするか。14年の歳月は人の環境を変えるものだと。でも、もう「帰って」くることはない。帰ってくるのが当たり前すぎて意識さえしなかったのに、ある日を境に永久に帰ってこないことが確実になる。そこではじめて、「帰る」ことが人間にとっていかに大事なことだったのか思い知らされる。だから故人のことを「帰らぬ人」というのでしょう。